工場見学と聞いて完全に舐めていた。
俺は生まれも育ちも日立市である。日立市は言わずもがな日立製作所の企業城下町、それこそ右を向いても工場、左を向いても工場、同級生の中には自分の親が工場を経営しているものもそれこそ一人や二人ではない。そのぐらい身近に工場のある生活であったため、工場は俺にとっては空気と同じぐらいあって当たり前の珍しくもなんともない存在なのである。
だから内心行くまでは今更工場見学ねぇ・・・、出来たてのビールを試飲出来るといったって、どうせ赤木春恵似のちょっと気の強そうなおばちゃんが仕切る社員食堂のようなところでアサヒのロゴ入りの紙コップに注がれたものを飲むだけなんだろ、そんなもんお慰みで行う、優勝が決まった後のまったくやる気のない消化試合みたいなもんやんけと思っていたのだが、なんじゃこりゃあ〜、完全に高級ホテルじゃん。完全に度肝を抜かれる。
「ようこそお待ちしておりました」、玄関に入る早々、フロントにいた支配人と思しき男性と受け付け嬢に深々とお辞儀をされる。
首に手ぬぐいをまいたぐらいにした油まみれの作業着のおっちゃんに案内された小学生の時に社会科見学で行った地元の工場とは大違いだ。
だいたいなんだよその仕立てのよさそうな支配人のスーツは・・・、ここホントに工場なん?
見学開始時間より15分程早く来てしまったからフロントロビーで待たされたのだがここだけの空間を見せられたらとても工場とは思えん、そのぐらい凄い。
当たり前だがロビーには塵一つなく、トイレもピカピカ、案内係のお姉さん達とすれ違う度どのお姉さんもにっこりと笑い、深々とお辞儀をして今日はようこそいらっしゃいましただからねぇ、感心した。
しかも、何ていうのかな、某ディズニーランドの従業員のような確かに物凄く丁寧なんだけど、その実まったく心を感じられないターミネーター的な挨拶とは違い、ニコッとされた瞬間、こちらまで嬉しくなるような自然なスマイルなのだ。平林都の接遇道でも学んでんのか?
そうこうしているうちに15分はあっという間に過ぎ、案内係のお姉さんに連れられてシアタールームに入る。三面鏡のような巨大なスクリーンで茨城工場の歴史、概要とスーパードライが出来る迄の工程、そして従業員さん達のビールに懸ける熱き思いの映像を約10分間見せられる。従業員さん達の演技がビールの味見をするたびに、「よしっ」だとか、うんうんと頷くのは多少わざとらしかったがまあそれを差し引いてもよく出来ていると思う。こうして映像を見終え、いざ工場見学に行くのかなぁと思ったらいきなり三面スクリーンがウィーンと下に下がり出し、一体何事が始まるんだと呆気にとられていると目の前に素晴らしい池付きの庭園(ビオトープ)が現われる(スクリーンの後ろは一面ガラス張り)。その池は自分達がいる席より高い位置にあるため、観客はまるで水の中にいるような錯覚に陥るのだ(画像参照)。圧巻。おい、本当にここ工場なのかよ・・・。
さて、ひとしきり感動した後はいよいよ工場見学なのであるがご多聞に漏れず生産過程などは全て撮影禁止である。まあ企業秘密もあるしそれは仕方ないわな。工場の中を撮影させろというのは言い換えればスープが自慢のラーメン屋に行って作り方教えろっていうのに等しい愚挙。それにしても驚いたのは日立市の工場とは違い、殆ど人がいないのだ。オートメーション化が進み全てコンピューター制御されており、実際の工場の中を覗いても働いている人はホント数える程度しか見当たらない。それでも700人以上の方たちがこの茨城工場で働いているらしいのだがどこにいるんじゃろ。うーむ不思議だ。
ただ、何か警報ブザーが鳴ると一斉に飛び出してきて工場の中は割れんばかりの人で溢れかえるらしい。あんたらは刑務所の看守か。なお、工場は全て上から下を見下ろす形式であるため全体が俯瞰的に見れるのでまったく疲れない。途中ビールの原料となる二条麦を食べさせてくれたり(香ばしくて美味しかった)、ホップの実物を見せてくれたり、40分の見学はあっという間だった。
そしてお待ちかねの試飲タイムであるがまずすごいのは場所な。写真を参考にしてもらいたいのだが関東平野を一望できる地上60mのアイムタワー(Asahi Ibaraki Moriyaの頭文字だってさ)にエレベーターで昇り、出来立てのアサヒスーパードライやドライブラックをタンブラーで一人三杯まで頂ける(三杯も飲んだら普通充分だろ)。なお希望によりエクストラコールドでの試飲も可能である。オコゲスタというおつまみ(お菓子、めちゃうま)を頂きながら喉を潤す。無類の酒好きであるうちの親父が出来たては明らかに違うというのだから半端なく旨いんだろうな。「だろうな」というのは俺は運転のため飲めず、ひたすらアサヒの缶ジュースを飲んでいたから。俺も飲みてぇよ、チクショーめっ。
また、俺はここでも感心させられた。ガイドさんが一人一人の席を廻り、工場見学やビールについて何か分からなかったことはなかったですかなどと聞いてくれるのだ。その心配りが実にいいなぁと思ったな、ほっこりするよ。
なお、親父は調子に乗ってしまい、「わたしはね、ビールって言ったらスーパードライしか飲みませんから。風呂上がりにまずはスーパードライで喉をキューッと潤してから日本酒に入るわけです。ビールはキリンよりアサヒ、これは譲れないですよ、ねぇ、ガイドさん」なんていう始末でねぇ・・・、ちゃんと言っておく、あんたが毎晩飲んでのはアサヒじゃなく、キリン、しかもビールじゃなくて淡麗生、それは発泡酒じゃあ、こらーーっ、しかもおふくろのいる前で、今度日立に来てください、私がうまい魚喰わせるところを案内しますからっていけしゃあしゃあと口説いてんじゃねぇーぞ、くそジジイがっ!!
とにかく試飲まで含め(ぼくちんは飲めなかったが)、このアサヒビールの工場見学は本当に素晴らしいと思った。非の打ちどころがなく観光のなんたるかのツボを見事に押さえている。一般の方はもちろんのこと、自分ちで何か商売をやっているとか、普段接客の仕事をしている人は是非一度見学した方がいいと思うぞ。絶対に勉強になる。確かに嫌味な言い方をすればこんなに素晴らしい工場見学が出来るのも大企業の為せる力技だとも言えなくないがそれを言ったら単なる負け惜しみだしね、素直に脱帽だす。ビールだけに乾杯ならぬ、完敗、いい意味で裏切られた。とにかく行け。
出来たてのビールが飲みたかった度 | ★★★★★ |
素晴らしい施設度 | ★★★★★ |
閑古鳥が鳴いている他の観光スポットは見習え度 | ★★★★★ |
所在地 | 守谷市緑一丁目1-1 |
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問い合わせ先 | 0297-45-7335 |
利用可能時間 | 受付時間:9:00~17:00 (休業日をのぞく |
料金 | 無料 |
休日 | ホームページ参照 |
駐車場 | あり(無料) |
ホームページ | http://www.asahibeer.co.jp/ |